2010年11月23日火曜日

スティーブ・ジョブズ、小さなプレゼン(動画&和訳付き)

アップルのCEO(最高経営責任者)にしてプレゼンテーションの達人であるスティーブ・ジョブズ氏の、あまり日本では知られていない、3分ほどの、しかし、心に残るプレゼンテーションがある。スピーチといってもいいのかもしれがいが、このプレゼンを含む動画を紹介する。少し長いが、よろしければお付き合いください。

動画の長さは全体では32分22秒ほどで、ちょうど13分からジョブスのスピーチは始まり、2分30秒ほど続く。ジョブスがいつも使う、プレゼンテーションソフトのKeynoteで作成したビジュアルも、専門のカメラマンによる画像のアップや移動もないが、心に響いてくる。



動画だけだと分かりにくいので、以下にジョブズが話した内容を和訳した文章と英語の原文をを表記する。この会見全体がどういうものであるかも書いた。興味のあるかたはお読みください。

和訳は以下である。

シュワルツェネッガー知事、紹介ありがとう。

去年、私は肝臓移植を受けました。移植を待ちながら死んでいく多くの人がいるのですから、とても私は幸運でした。去年、カリフォルニア数では671件の肝臓移植が実施されています。しかし同じ年、カリフォルニアでは3400人以上が肝臓移植を待ち望んでおり、そのうちの400人が移植がかなわぬまま亡くなっています。

去年、カリフォルニアで肝臓移植を望みながら亡くなる人間の一人になりかけました。私はスタンフォードで手厚い看護を受けていました。しかし、カリフォルニアには移植可能な肝臓が全く存在せず、医師の助言を受け、ここカリフォルニアよりも肝臓を移植できる可能性が高いテネシー州メンフィスの移植プログラムに登録したのです。私は幸運なことに肝臓を移植する機会を得て、来週で移植から1年の歳月を迎えます(訳注:プレゼンは米国時間の2010年3月19日)。

どうしてもっとカリフォルニアで臓器が移植できないのでしょうか。カリフォルニアでは、他の多くの州と同様に、新しい運転免許を得るために自動車局に訪れた際、明確に臓器を提供する意志があると頼まなければなりません。臓器を提供したいのかと尋ねる人が誰もいないのにです。この場所で臓器を提供する意志があると申し出る機会があると知らせるマーケティングキャンペーンもありません。

だから知る機会が減り、はっきりと尋ねる機会が減るのです。誰も尋ねなければ、この機会を誰も生かせません。ただこのあいまいな手順のなかでさえ、カリフォルニアに住む20%を超す人々が臓器を提供すると申し出ているのです。素晴らしいことですが、すべての人々がこの機会を知ったら何が起こるか想像してみてください。

これが知事の法案が実現しようとしていることです。自動車局で、臓器を提供する意志があるかどうかを尋ねるように求めるだけです。これだけ。たった1つの質問が、カリフォルニアで移植可能な臓器の数を2倍に増やすかもしれません。

たった1つの簡単な質問がです。これは非常に高い効果が期待できる投資です。特に今、カリフォルニアで臓器の移植を待ち望んでいる2000人を超す人間にとっては、です。

だから知事、この法案に対するあなたのリーダーシップに感謝します。
では、エレイン・アルキスト上院議員をご紹介します。

和訳はここまでだ。いかがだろうか。冒頭、自らが死の淵にあったことを伝え、直後に数値、それも死に瀕している人間の数を明示してカリフォルニアの臓器移植を巡る現実を聞き手に突き付ける。そこから一気に、臓器移植を巡る問題点を指摘し、解決策が存在することを知らせる。そして最後に、臓器提供を求める。

中段、自動車局で臓器移植の意志があるかどうかというところで、日本に住む我々にとっては話題がやや飛躍している。少し解説する。

プレゼンはカリフォルニア州が、臓器移植の登録を容易にするための法案の成立を呼びかけるために開いた記者会見でのものである。同法案は、カリフォルニア州で腎臓移植を目的とした、生体ドナー(提供者)の登録制度を開始するものだ。同時に、カリフォルニア州の免許取得者に、臓器ドナーになる意志があるかどうかを、免許を更新する際に尋ねるよう求めている。ジョブズは、後者の点にポイントを絞ってプレゼンしている。

私が翻訳した文章なので、おかしなところがあるかもしれない。特にカリフォルニア州の臓器移植法案については知識のない部分であり、間違っている点、不足の点がある可能性がある。お気づきの方は、ご遠慮なくご指摘ください。

原文

Thank you, Governor Schwarzenegger. 

Last year, I received a liver transplant. I was very fortunate, because many others died waiting to receive one. Last year in California there were 671 liver transplants. But last year there were also over 3,400 people waiting for liver and over 400 of them died waiting in California.

I was almost one of ones died waiting for liver in California last year. I was receiving great care here at Stanford. But there were simply none of livers in California to go around and my doctors here advised me to enroll transplant program in Memphis, Tennessee where  supply-demand ratio livers more favorable than it is in California here. and I was lucky enough to get liver in time, as a matter of fact coming weeks is one year anniversary, so. 

Why aren't there more organs available in California? Because in California, like most other states in the nation you must spedificly request become an oragan donner at the Department of Motor Vehicles when you are there to get your new driver's license. And no one ask you if you wanna become a donor. And there are no marketing campaign to make your where this opportunity either. 

So less you know about it ,so less you specifically ask. Nobody ask you, nobody give you this opportunity. And yet even in obscure procedure, over 20% of Californians have signed up to be an organ donners. Which is fantastic but imagine what could be if everyone knew this opportunity.

And that's what governor's bill will do. It is simply required DMV to ask you if you like to become an organ donner. That's it. Asking this one simple question may double the number of transplant organs avaiable in Califronia. 

One simple question. And that's a very high return on investment. Especially for the over 2,000 Californians currently waiting for organ transplant. 

So Governer, thank you for your leadership on this bill. And now I'd like to introduce Senator Elaine Alquist. 

ジョブズが話している場所は、「Lucile Packard Children's Hospital」になる。米国を代表するIT企業であるヒューレット・パッカードの創立者の一人である、デーブ・パッカードの夫人であるルーシー・パッカードの名前を取った病院で、スタンフォード大学のキャンパスにある。子供に対する臓器移植で実績がある。アーノルド・シュワルツェネッガー州知事が登場しているのは、知事として自らが提出した法案の成立を求めるためだ。

この法案は今年10月に成立している。

きっかけがなく、このプレゼンについてなかなか書けなかったのだが、11月初旬にかけて日本テレビが臓器移植に関するドキュメンタリーを2度にわたって放送したこと、「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」(日経BP社刊)を読む機会が重なったことから、書いてみることにした。プレゼン自体は今年3月のもので、少し古くなっているが、部分的な翻訳を付けたブログなどはあるのだが、全文を翻訳すれば意味があるかもしれないという気持ちもある。

臓器移植は、普段はあまり意識しないようにしている人の生死というものをむき出しにする。スティーブ・ジョブズ独自のプレゼンテーション技術だけでなく、死に直面した人間の率直な言葉が、この短いプレゼンを心に残るものにしている。

執筆に当たっては、日本テレビが東京地区では放映するNNNドキュメントの「臓 器 提 供 家族が決断するとき」「レシピエント 脳死移植医と患者の540日」、「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」(日経BP社)、米国のオンラインメディアBusiness Alley Insiderの「California Passes Steve Jobs's Organ Donor Law」などを参考にした。